私のお気に入り調味料は「マスコット製カイエンヌペッパー」です。マスコットというメーカーが販売している粉末状の一味唐辛子であり、「カイエンヌペッパー」は唐辛子の中でもひときわ辛いことを特徴とします。
この「マスコット製カイエンヌペッパー」のおすすめポイントを3つ挙げましょう。
1. 辛い
はい、辛いです。この場合の「辛い」は「からい」であって「つらい」ではありません。従って、この「マスコット製カイエンヌペッパー」を使用すると「人生がつらくなって、辛酸を嘗めることになり、絶望の淵に立たされた上に崖から突き落とされて一巻の終わり」という意味ではないということです。
私は殊更マスコット社の回し者というわけではないのですが、この点について誤解を生じさせぬよう念のために申し上げておきました。「マスコット製カイエンヌペッパー」のせいで人生を棒に振ることはゆめゆめ御座いませんので、安心してくださいますよう。
2. 辛い
はい、改めて辛いです。ホットです。
家庭で使われている調味料としての唐辛子はS&B食品のものが一般的でしょう。お馴染みの縦長の瓶で「一味唐辛子」と「七味唐辛子」が人気の双璧であると思われます。しかし、辛味愛好家にとっては物足りないという意見が聞かれることもしばしばです。
しかし、私たちはここで「マスコット製カイエンヌペッパー」を発見しました。もう、S&B食品の一味唐辛子を夕食の1品につき山のようにふりかけて友人を仰天させ、恋人の顰蹙を買い、家族の眉間の皺を増やす心配は要りません。
私たちがすべきことは「マスコット製カイエンヌペッパー」を極めてエレガントな仕草で食品に2〜3振りするだけです。間違っても山のようにふりかけてはなりません。なぜなら、そのような行為は気品を損なう上に、「マスコット製カイエンヌペッパー」の辛味は比類なき程に屈強であるので調子に乗って山のようにふりかけると本当に大変なことになるからです。
3. 辛い
世は激辛ブームと言っても差し支えなく、コンビニのカップラーメンコーナーにおいては「激辛」と称するものが幅を利かせて並んでいる光景も珍しいものではなくなりました。しかし、その中の一体どれだけが本当に「激辛」なのでしょう。
私の独断と偏見に満ちた主観による独自の調査によれば「激辛」と称するカップラーメンのうち、その頂点に君臨するのが「蒙古タンメン中本・北極」でした。これについては疑問の余地はないでしょう。しかし、それ以外のものについて「激辛」と呼んで恥じないものが果たしてどれだけあったでしょうか。
「激辛」につられて買ってきたカップラーメンが「激辛」でなかったときの失望感は何物にも代えがたいもので、汗の代わりに涙でTシャツを濡らしたものでした。しかし、この「マスコット製カイエンヌペッパー」は本物です。私の独断と偏見が保証しましょう。
この「マスコット製カイエンヌペッパー」、デザインは非常にそっけなく「激辛」などとという煽り文句はどこにも書かれていません。地味です。ぱっと見の第一印象はおそらく「辛そうだね」ではなく「なんかおしゃれっぽいね(よくわかんないけど)」でしょう。私も最初は「全く期待せずに買った」というのが正直なところでした。
しかし、本物は一見そっけないものです。『夜と霧』というそっけないタイトルの文学作品が比肩なき傑作であるように、特殊相対性理論が「E = mc2」という極めてシンプルな式で表されるように、ある種の状況下においては「I love you」以上に説得力を持つ言葉がないように、この素通りしそうな程にそっけない「マスコット製カイエンヌペッパー」は紛れもない本物でした。この場合の「本物」とは「マジで辛い」を意味します。
そう、「マジで辛い」ので買ってきてから1年以上経つのにまだ半分も減っていません。いつの日か使い終わったらまた同じものを買って、長い時間を共に過ごすでしょう。なぜなら、「マスコット製カイエンヌペッパー」は私のお気に入り調味料だからです。